月末近くになると店頭で「本日は棚卸の為〇時に閉店します」と言う張り紙を見かけることがあります。
会計では、商品を仕入れたら経費とするのではなく、販売して初めて経費となります。
その為、売れていない商品はお金を払っていても経費ではなく、「在庫=会社の資産」となります。
デパートの様に商品数が多い場合、さぞかし棚卸が大変かと思いきや、意外にそうでもなかったりします。
それはなぜでしょうか?
企業は資産リスクを対価にリターンを獲得します。
ただ、時代の要請や企業自体の変化でリスクを取る資産は変化していきます。
現在、リスクを取る資産を変えつつある百貨店を例にとり、資産リスクの取り方を考えてみましょう。
百貨店の主力商品である衣料部門には多くのアパレルメーカーが出店していますが、百貨店の店頭に並ぶ商品は実は百貨店の在庫ではなく、アパレルメーカーが保有しています。
顧客が店頭に並ぶ商品を購入した段階で、百貨店がメーカーから商品を買い取り、それと同時に百貨店が顧客に販売するという販売形態をとっています。
このシステムを「消化仕入」といいます。
消化仕入では百貨店は商品を購入したと同時に販売できるので、在庫リスクはゼロです。
在庫リスクを取らずに商売ができるのですから、消化仕入は百貨店にとっては実に優れた販売システムです。
一方、アパレルメーカーは百貨店に出店することで、他よりも高い価格で確実に売れるという信頼感があるから、消化仕入などという不利な条件をのむのです。
この場合、百貨店がリターンの対価としてリスクを取る資産は在庫ではなく、ブランドという無形固定資産(百貨店は老舗が多いですから、多くの場合、簿外の資産価値になるでしょう)になります。
百貨店の高いブランド力を背景にしているからこそ、消化仕入システムは成立します(なお、IFRS(国際会計基準)では在庫リスクを取らない販売は売上としては認められないとして、消化仕入による販売は売上ではなく、利ザヤ分だけの手数料収入となります)。
昨今、百貨店のブランド力も落ちてきました。
消費不況と言われていますが、特に百貨店のブランド力の低下は顕著です。
在庫リスクを取らない消化仕入では十分な収益を上げることができなくなっているのです。
それに歯止めをかけるべく、トップ企業である三越伊勢丹を筆頭に百貨店は消化仕入からの脱皮を図っています。
消化仕入では在庫リスクはない代わりに、店頭に並ぶ商品を自ら選ぶことはできません。
それでは、顧客のニーズに迅速に応えることはできません。
そこで、百貨店が自らの判断で仕入れて販売する商品のウェートを増加させつつあるのです。
在庫リスクを取る商売は、利益率は向上しますが、売れ残れば損失を背負い込みます。
リスクを取る資産が変わるということは、企業のあり方も大きく変えます。
単に貸借対照表の資産の残高が移動するということだけではなく、営業体制や求められる人材も変わるのです。
従来の百貨店はブランドや立地という無形固定資産に磨きをかける企業でしたが、これからは在庫を充実させる企業に変わります。
最も求められる能力は商品の売れ筋を的確につかむ目利き力になります。
経営者はどの資産でリスクを取ってリターンを上げるのかを明確に認識し、リスクとリターンが見合っているか、あるいは、自社の財務体力に照らして、どこまでリスクを取れるのかを把握しておかなければなりませんね。
参考:(株)税務研究会 税研情報センター