地方経済が厳しい状況に置かれる中、地域に存在する特有の経営資源として、特産品や伝統的に承継された製法、地場産業の集積による技術の蓄積、自然や歴史遺産といった文化財などの地域資源の活用が求められています。
『中小企業白書(2014年版)』によると、都道府県が地域産業資源として指定した件数の内訳では、観光資源の指定件数が49%、農林水産物が約30%、鉱工業品が21%と、観光資源が最も多い割合を占めています。
しかしながら同白書より、地域資源活用促進法に基づく事業計画の認定件数(累計)の内訳をみると、観光資源の割合は7%、鉱工業品57%、農林水産物36%と、観光資源の割合が最も低くなっています。
こうした中、体験型・交流型の要素を取り入れた着地型観光であるニューツーリズムの例として、日本の歴史、伝統といった文化的な要素に対する知的欲求を満たすことを目的とする観光形態である文化観光や、歴史的・文化的価値のある工場等やその遺構、機械器具、最先端の技術を備えた工場等を対象とし、学びや体験を伴う観光形態である産業観光への関心が高まっています。
産業観光で活用される観光資源には様々なものがありますが、そのうちの一つとして鉄道があげられます。
地方の鉄道では、人口減少による地元乗降客の減少が進む中で、観光利用による乗降客増加が重要な課題となっています。
一方で、全国には鉄道ファンが約150~200万人いると言われていることから、旧式の車両や、鉄道の遺構などを観光資源として活用し、全国から観光客を呼び込む取組みが求められているのです。
では、鉄道を活用した観光振興は具体的にどのように行われているのでしょうか。そこで島根県の事例をみていきましょう。
島根県出雲市に本社を置く一畑電車株式会社は、国内最古級車両の体験運転などといった新しい観光プログラムを展開する事業を推進することで、2012年2月に地域産業資源事業計画の認定を得ました。
この事業は、国内最古級車両である「デハニ50形」の現役引退後の活用策として、駅構内に150メートルの専用線を敷き、運転課の社員が交代で教官をつとめるという本格的な体験運転プログラムを実施することをはじめ、観光資源として「一畑電車」を活用した観光プログラムを開発し、地域経済の活性化を図ることを狙いとするものです。
同事業の差別化のポイントの一つに、活用する車両の古さがあります。
「デハニ50形」が製造されたのは1928年(昭和3年)であり、こうした古い車両に乗車ができ、かつ体験運転を事業として定期的に開催している例は少ないのです。
電車の体験運転は全国各地で行われていますが、西日本では同様のプログラムが少なく、出雲大社や2015年7月に国宝に指定された松江城などの沿線の豊富な観光資源と組み合わせたツアーを楽しむことができる点も特徴です。
このように、地方では鉄道を活用した体験・交流型観光を推進し、観光振興を起点とした地域活性化への取組みが行われているのです。
参考:(株)税務研究会 税研情報センター