企業の執行機関の中核は取締役会です。
トップ(社長等)が法令違反等のおかしなことをしようとしても、取締役会のメンバーである取締役がしっかりしていれば、社長の暴走を食い止めることができるように制度設計されています。
しかし、最近話題の東芝でもトップの暴走を取締役会で食い止めることはできませんでした。
その原因を取締役の独立性の不足に求める意見が一般的です。
取締役は会社によって雇用される一般社員とは立場が決定的に異なります。
株主によって選ばれ、株主のために行動しなければなりません。
しかし、日本企業の取締役にはその辺の基本認識が欠けており、社員の延長線上で取締役の職務を考えている人が少なくありません。
取締役は形式的には株主総会で決定されますが、実質的にはトップが社員の中から候補者を選んだ段階で決まります。
自分を取締役にしてくれたのが社長だと考えれば、取締役会で社長の意に逆らうことは難しくなります。
株主のため、つまりは会社を良くするために取締役として判断するというより、社員と同じ目線で社長のために働くと考えてしまうのです。
また、社長も人の子ですから、自分に意見するような剛直な人間より、自分の意向に逆らわない素直な人を取締役に選びたくなるのも人情です。
日本は終身雇用の会社が多いこともその傾向に拍車をかけ、取締役会のガバナンス体制が有効に機能しないということが日本の企業の問題点として指摘されていました。
そこでガバナンス強化のため、社外取締役や独立取締役の存在がクローズアップされてきています。
以前、日本銀行の総裁が白川氏から元財務官の黒田氏に代わったとき、日銀の政策スタンスは非常に大きく変わりました。
総裁と副総裁以外の審議委員6人は変わっていないにもかかわらず、政策委員会の満場一致で政策変更の決定がなされた時にも違和感を持った覚えがありました。
日銀の審議委員は日銀の外部から識見の高い人が選ばれています。
その独立性の高さは言うまでもありません。
それでも、このときの政策変更は満場一致で決まりました。
日銀の政策委員会と会社の取締役会は目的もあり方もまったく違うものであり、両者を同じ土俵の上で論じることは乱暴な議論だということは十分承知しています。
それでも、会議がその場の空気に支配されることや、トップの意向に逆らうことは容易でないという日本社会特有の土壌は共通しているように思えます。
このように考えると、単に社外の人間だからというだけで、社外取締役や独立取締役を選任したところで、それだけでガバナンスの有効性を確保できないことがわかります。
社外取締役や独立取締役は単なるハード面の整備です。
会社のガバナンスを真に有効に機能させるには、ハードを整えるだけでよしとするのではなく、ソフト面の充実が不可欠です。何より経営トップが重要です。
トップには決断力も重要ですが、反論を許す度量の広さも求められます。
また、取締役会の構成メンバーである取締役は社内取締役にしろ、社外取締役にしろ、自分が会社のガバナンスの最後の砦であるという認識を強く持たなければなりません。
参考:(株)税務研究会 税研情報センター