経済の発展を支えるのはイノベーション(技術革新)です。
イノベーションがないまま、以前と同じ生産形態で同じ製品を作っていたのでは、一人当たりの生産性は変わりません。
人口が増加するなら、生産性が変わらなくても、GDP(国内総生産)を増加させることは可能ですが、これから人口が減少する日本でGDPを増やすには、イノベーションが不可欠です。
ただ、イノベーションさえあればGDPが必ず拡大するかというと、そうとは言えないのが悩ましいところです。
なぜなら、イノベーションにはプロダクトイノベーションとプロセスイノベーションの2種類があるからです。
プロダクトイノベーションというのは製品に関する技術革新です。
昔を振り返ると、自動車、テレビ、冷蔵庫などの新製品が次々とお茶の間に登場しました。
最近であればパソコンや携帯電話などが該当するでしょう。
プロダクトイノベーションがあると、新しい製品が身の回りに出現し、場合によっては消費者の生活形態を劇的に変えることもあります。
一方、プロセスイノベーションは企業の生産・流通過程における改革です。
人力に頼っていた製造工程をロボットに置き換え人件費を削減するとか、中間業者を通していた販売をネットの直販に変えることにより販売経費を圧縮するとかいったケースが考えられます。
プロセスイノベーションはプロダクトイノベーションとは違い、末端ユーザーに届く最終製品は変わりません。最終製品になるまでの過程が変わることになります。
プロダクトイノベーションとプロセスイノベーションの違いを会計面から見ると次のようになります。
プロダクトイノベーションでは損益計算書の売上が増大し利益が拡大するのに対し、プロセスイノベーションは売上の拡大ではなく経費の削減により利益を増やします。
プロダクトイノベーションは企業の売上を増大させますから、文句なくGDPを増やします。
一方、プロセスイノベーションが引き起こすのは費用の減少です。
ある企業の費用の減少は他の企業の売上の減少、あるいは雇用の減少を招きますから、GDPにはどちらかといえばマイナスのインパクトを与えます。
物価への影響を考えれば、プロダクトイノベーションは需要の拡大を通じてインフレに向かいますが、プロセスイノベーションはデフレ傾向を強めます。
日本がデフレからなかなか抜け出せない理由には様々な要因が考えられます。
その一つに、近年のイノベーションがプロダクトイノベーションよりプロセスイノベーションが優勢だということも挙げられます。
つまり、企業が販売価格を引き上げられるように製品に付加価値を付けることより、コスト削減に熱心であった結果がデフレを招いているという側面もあるのです。
現在、アベノミクスで国を挙げてデフレ脱却に努力していますが、デフレ脱却のためには、末端の製品価格を引き上げなければなりません。
そのためには消費者の需要を喚起するプロダクトイノベーションが個々の企業レベルで求められるのです。
参考:(株)税務研究会 税研情報センター