本業での経営環境が激化する中、他の業種から農業へと参入する動きが注目されています。
異業種からの農業参入における例として、食品関連産業からの参入があげられます。
食品関連産業が農業に参入することによって、自社で加工する製品の原材料の栽培に参入することによるトレーサビリティの確保や、原材料の安定的な調達、製品の高付加価値化による差別化、物流コストの削減、企業イメージの向上などが期待されます。
また、特に地方においては建設業からの農業参入の動きが顕著となっています。
その背景には公共事業の減少によって本業の事業環境が厳しさを増す中、農業への参入によって新たな収入源の確保、雇用の維持、建設業で培った既存技術の活用による本業との相乗効果の発揮などが期待されています。
一方で、異業種からの農業参入で成功するのは容易ではありません。
2008年に農業参入法人連絡協議会・全国農業会議所が実施した「農外から農業に参入した法人に対するアンケート調査」によると、回答企業の6割以上の法人が、農業部門の経営状況について赤字であると回答しています。
また、農業経営における課題として、「農業生産や経営、技術に関すること」、「農産物の加工や販売に関すること」などといった技術面、販売面に関する課題が上位を占めています。
異業種からの農業参入に成功するためには、農業経営が黒字となるまで長期間を要する覚悟を持ち、農産物の生産ノウハウを身に付け栽培技術を確立させるとともに、生産した農産物を販売するための販路を確保することが求められます。
では、異業種からの農業参入においては具体的にどのような取組みが行われているのでしょうか。
そこで島根県においてトマトの栽培に参入した建設業者A社の取組みをみていきましょう。
A社はコンクリートブロック及びセメント製品の製造販売を行う企業です。A社では創業時から障害者を積極的に雇用してきましたが、障害者の雇用を継続することを目的に2014年にトマト栽培に参入しました。
技術面においては、島根県内において農業参入を支援する専門業者のサポートを受けました。
A社が専門業者のサポートによって導入した栽培技術は、特殊なフィルムの下に設置した養液チューブから水や養分を与えるもので、水や養分はフィルムを透過してしみ上がる一方、無駄な栄養分の吸収がなくウィルスや細菌がフィルムを通らないことから病害の発生が極めて少なくなり、甘みの強い高品質のトマトができるというものです。
また、農薬などの廃液を減らすことができるため環境にやさしいのも特徴です。
販売面では、地元のスーパーマーケットや、道の駅などの販路を確保しています。
一方で、更なる販路拡大や栽培したトマトを活用した2次加工品の開発が課題となっており、現在A社では栽培したトマトを用いたトマトジュースの開発などによる付加価値の向上に取り組んでいます。
またA社ではトマトの栽培において障害者が活躍しており地域の雇用促進にも貢献しています。
記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター